一般財団法人たんぽぽの家が進めるプロジェクト「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」(文化庁「障害者等による文化芸術活動推進事業」)。その2024年度プログラム「身近な音と新たな音色が生み出す表現」(大阪府富田林市・四天王寺和らぎ苑)に、技術協力として参加しました。
どんな取り組み?
AI研究者・アーティストの徳井直生さんが率いるNeutone社のオーディオプラグインNeutone Morphoを使い、施設のなかにある「身近な音」——食事の音、呼吸音や声、創作活動中の音——を、リアルタイムでまったく別の音色へと変換する。重症心身障害のある利用者のみなさんと職員の方々が、その音を素材に音響作品をつくるワークショップです。
「聴く」をひらく
私はバイノーラル録音とHRTF(頭部伝達関数)を用いた表現の面からこの取り組みに参加しました。3Dプリントした頭部モデルを使った録音をはじめ、さまざまな方法で「その人の耳に届いている音」を捉えることに挑戦。他者がどんな音を聴いているのかを体験し合う——そんな時間を技術の側から支えました。
実際に複数回、四天王寺和らぎ苑さまの現場に足を運び、後半のワークショップではファシリテーターとして、そして一人の技術者として、参加者のみなさんと一緒に音響作品づくりに取り組みました。
現場から見えたこと
ワークショップを終えて、参加者からは「ケアの音も表現になる」という気づきや、発語や楽器の演奏が難しい人の自己表現につながる可能性、日々の現場の音への意識の変化——利用者がどんな音を聴いているのかを想像するようになった、という声が寄せられました。障害のある人の表現方法としても、そして「ケア」そのものを捉えなおす取り組みとしても、大きな手応えのあるプロジェクトでした。
一方で、実施には専門的な機材と知識が必要であることも明らかになりました。技術的な制約と可能性を同時に把握して進行できるファシリテーターの育成——それが、この取り組みを広げていくためのこれからの課題です。私自身、その一人であり続けたいと思っています。
展覧会・シンポジウム・書籍へ
この取り組みは、2025年3月に渋谷のシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で開催された展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」で展示され、関連シンポジウム「ケアの現場で考える、音色生成AI・MRとつくる表現の可能性」でも報告されました。
また、活動の記録は書籍『テクノロジーって何だろう? 〈未完了相〉で出会い直すための手引き』(BNN)にも収録されています。
音は、これからも広がる
Neutone Morphoをハードウェア化するProject Lydiaも始動しています。また、卒業される方が楽器を演奏できるように、楽器奏者の音データ協力を募るサイトeveryone playerも公開されていました。
